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恋唄綴り

第五章 「俳優のノート」

ただっ広いカラオケBOXの一室に、私服の役所広司さんが入って来て、嬉々としながら選曲を始める。どうやら役所さんはカラオケが相当お好きなようだ。そんな役所さんとこんな広いスペースでカラオケ出来るなんて、今日はなんて幸福な一日だろう…。というより、自分は何を歌えばいいんだろう!?
しばらくすると役所さんの携帯電話が鳴り、「よしっわかった! 今から行く!」役所さんは急に怖い顔になり、「山崎努さんが向かいのカラオケBOXに入ったそうだ」ニヤリ笑ってそう言うと、薄いジャケットの中からドスを抜き出し、「さぁ康太、行くぞ!!」役所さんは全身狂気を身にまとい、カラオケBOXの裏手の非常階段をカンカンカンと音をたて駆け下りて行く。その背中を必死で追いかけた所で、どこか遠くからアラーム音が聞こえて来た…。

と、つい最近こんな夢を見た。
この「恋唄綴り」でいずれは役所広司さんのことを書かなければと思っていたこともあるのだろうし、また山崎努さんの書かれた「俳優のノート」にも触れなければいけない。そしてカラオケBOXでの自主稽古のことも…。そんな思いがあってのこの夢には違いないのだが、ドスを持って階段を駆け下りて行く役所広司さんは、まさしく細野辰興監督作品「しのいだれ」もしくは「シャブ極道」の頃の役所さんで、今回の僕のチャレンジは、その当時の役所広司さんの影をいつもいつも追いかけていたような気がする。
細野監督の代表作でもあり、また役所広司さんの代表作でもある「シャブ極道」が撮影された時、役所さんは今現在の僕と同じ39歳であったそうだ。
そのことを細野さんに伝え聞いてからは、いつもそのことを意識していたし、それはプレッシャーにも、またモチベーションにもなった。
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山崎努さんの「俳優のノート」を読んだのは、「スタニスラフスキー探偵団」初演の頃だったか?
一人の俳優が、ひとつの芝居(リア王)、ひとつの役の為に準備、稽古、そして本番までに至る過程を日記形式で綴ったこの本は、文庫の解説で香川照之さんが書かれているように、俳優の「教科書」とも呼べる本で、自分がまたこうして舞台をやると決めた時から、何度となく再読していた。
そして気になった、もしくは気に入った言葉は、戯曲「スタニスラフスキー探偵団」の裏のページに書き込んだりもした。
キンコーズで製本した自己流な台本を見開きにせず、あえて片面印刷にしたのはそういう理由もあった。日記を書くような時間も余裕もないかもしれないが「メモ」くらいは出来るだろうし、することにもなるだろう。だから白紙を、なるべく余白を多くしたかった。
そのぶん厚みが増す懸念もあったが、ページをめくる手が汚れたり汗ばんでいたりして、台本がどんどん薄汚れて、また分厚くなっていく様も、舞台特有というか、嫌いではないのだった。

山崎努さんが「俳優のノート」で綴っている文章を参考にすると「リア王」の稽古開始は12月1日。その稽古が始まる前の準備に取りかかる日記がスタートするのは7月。
ほぼほぼ「スタニスラフスキー探偵団」と同じスケジュールなので、台詞を入れていくタイミング、努力、また役を構築していく経過、思索などは本当に参考になった。
こちらの稽古開始は、11月28日。公演初日は年を挟んでの1月8日。
稽古初日には、ほぼほぼ台詞を入れておこうと決めていた。本読みで始まろうが関係ない、立ち稽古が始まるタイミングには、台詞は入れておかなければいけない。そうでなければ間に合わない。片手に台本持ったまま、稽古出来るような芝居でないことは、初演の稽古を見ていたので知っていた。
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9月9日 
ポスター撮り。久しぶりに山田キヌヲちゃんに会う。彼女が一緒に闘ってくれるということもなんとも心強く、今回の挑戦を決めるにあたっての後押しをしてくれた。金子鈴幸君ら、初対面のメンバーにも会う。助監督役、綾部に決まった森谷勇太は今日が誕生日。細野さん達と焼き鳥を食べながら祝す。彼が夏のワークショップを経て、正式に役を獲得してくれて本当に良かったと思う。初演時のメンバー、円山役の向山さんと三人で、近々自主稽古を行おうと計画する。

9月17日
新宿三丁目のカラオケBOXにて自主稽古。実はその前にも、向山さんには個別レッスンをお願いした。普段はナレーションを主戦場にしている向山さんに、発声や滑舌の基礎を学ばせてもらった。短い時間ではあったものの、「喉を温める」みたいなエクササイズですら、未学習のまま俳優を続けてしまったのだなぁと痛感する。ちょこっとだけボクシングジムに通ったとき、延々とシャドーボクシングを続けたことを思い出す。基礎こそ大事。継続は力なり。
この日は、冒頭の10分ほどの、三人だけが登場する冒頭のシーンを重点的に。このシーンが本当に大切なのだ。このシーンで作品の出来が決まる。いや、作品の方向性が決まる。ともかく大事な冒頭シーン。ゆっくりしてはいられない。冒頭から畳み掛ける。圧倒するイメージで演りたい。その為にも、三人の呼吸、リズムが大切。まずは自分の長台詞だが…。

10月はずっと体調思わしくなく、偏頭痛、肩こり、首痛に悩まされ通院の日々だった。ジムに通って体力強化月間にしようと思っていたのに調子が狂った。そのぶん、台詞を覚えることに専念した。
台詞覚えは、後日改めて書くこととして苦心した。日頃から3行の台詞ですら苦労するのだから当然。「台詞覚えは反復」山崎努さんも言っているが、いろいろな方法を試してみる。映像の時は、台詞をノートに書き写してみたりもするのだが、今回はそんな訳にもいかず、全編を22のブロックに分けてから、ボイスメモに吹き込んで耳で覚えてみたりした。それをまた大きく4ブロックに分けたり…。最後の最後まで試行錯誤。
そして11月、同じメンバーでの二度の自主稽古を経て、更に補習で、森谷勇太と二人っきりの自主稽古を経て、いよいよ、本当の稽古が始まる。
稽古開始一週間前に、ようやく原因不明の、長く続いた首痛がピタッと治まる。頸椎の歪みになんらかしらの奇跡が起きたかのような、自分でも驚くような劇的な回復だった。
痛みが治まったのでジム通いも再開。
稽古を重ねながら、尚かつ体力も回復させなければいけない。もうあまり時間もない。

11月26日
稽古開始二日前。直前に脱稿された最新稿をプリントアウト。それまで付き合ってくれた台本に書き込んだことを新たな本に書き写す。
1ページめ、タイトル裏の白紙には「悪魔のように細心に 天使のように大胆に」———
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映画「貌斬り」は絶賛編集中。「手応え有りっ!」の報告を監督の細野辰興さんから受けています。
この文章は、完成した映画を、全国各地の映画館で観てもらいたい一心で書いてみようと思ったものです。
映画「貌斬り」はモーションギャラリーサイトにて、劇場公開を支援していただける方を募っています。良かったらサイトの方もご覧になっていただければ幸いです。募集も残り二ヶ月となってきました。
 (Click!) 
編集中の、細野監督、若林大介さんへのエールも込めて、、、

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