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芦花公園の稽古場前で見た景色
恋唄綴り

第六章 「稽古初日」

2014年11月28日(金曜日)
13時から、いよいよ舞台「スタニスラフスキー探偵団」の稽古開始。
今回の稽古場は京王線の芦花公園にあって、小屋入りする年明けまでずっとこの稽古場に通うこととなる。前回公演では日替わりで各地の公民館などで稽古したが落ち着かなかった。自宅から小一時間かかる芦花公園だがひとつの場所を借りれたのだから文句もない。電車に乗ってる間はずっと台詞の入ったボイスメモを聞きながら通えばいい。昼前後の電車は空いていて快適。急がなければいつでも座れる。
細切れに入れた自分の声を最後まで聞くとちょうど一時間弱…。明大前で各駅に乗り換えるときに、ラストの台詞までちょうど辿り着いた。つまり、自分一人だけの台詞量で一時間弱喋ってることになる訳だ!? 勿論、今回のような台詞量は初体験。子役時代に「トムソーヤの冒険」で主役を演ったことがあるが、それでも今回とは比較にならない…。
稽古初日にはすべて台詞を入れておく準備をしておこうと思っていたが、この時点では80%くらい。
まだおぼつかない長台詞が何カ所かと、相手の台詞を聞かないと覚え辛い部分が何カ所か。ただ、今すぐ立てと言われれば、なんとかなるくらいまでは覚えてきていた。

この日、初めて芦花公園の駅に降り立った。
駅前はロータリーの回りにコンビニが一軒、ATMが二軒、ラーメン屋に美容室、となんだか駅前らしからぬ感じの中に大手スーパーのサミットがあった。これからひと月近く通う訳だ。街にも慣れたいと思い昼前には到着したが、見るものも立ち寄るものもなく拍子抜け。朝飯と昼飯を兼ねた食事は地元で済ましてきたが正解だった。
サミットで水(南アルプスの天然水)、そして小腹が空いた時の為にバナナを買う。
何故かしらこの日のこの買い物が、定番となる。そして12時前後に駅に着くのも習慣となる。
そしてまた、地元で食事を済ませるのも…。と、稽古初日にしてこれから過ごす一か月のルーティーンが早くも決まってしまった。

自宅の一階を稽古場として貸し出しているスタジオが今回の稽古場だった。
少し狭いかな? とも思ったが、舞台の設定は喫茶店の会議室。圧迫されるくらいの空間のほうがいいのかもしれない。とにかくこの場に慣れ、この場を愛おしく思えるくらい、稽古に明け暮れればいい。
映像育ちの自分はこの「稽古場」という空間がずっと苦手だった。ちょっとしたトラウマもある。だからこそ、今回の舞台ではその「稽古場嫌い」さえも克服しなければと思っていた。
助監督であり演出助手であり舞台監督であり、尚かつチケットの予約も引き受ける、なんでもござれの有馬君がセッティングしてくれたテーブルと椅子の配置に習い、着席して時を待つ。当然のこと真ん中。この真ん中を定位置に。違和感のないものにしたい。遠慮はいらない。ずっとずっとど真ん中に君臨しなければいけないのだ。傍らには山田キヌヲ。この年、三本目の舞台となる彼女の存在はいろいろな意味で安心させてくれた。
緊張はしなかったが何故か興奮していた。この日の為に備えて来た。この日を待っていた。あの2月26日から…。いや、もしかすると、前回の初演「スタニスラフスキー探偵団」が終わった時からか。
作・演出・細野辰興さんからの挨拶がある。この舞台は同時に、映画「貌斬り」の撮影へと至って行く。そのことをも含めての挨拶。自分が何故、演劇をやろうと思ったのか? 撮影だけでは物足りない。もっと芝居を熟成する時間が欲しい。即ち稽古期間を持ちたい。自分は稽古が好きなのだと。
映画「貌斬り」の為のリハーサル初日が今日だとすれば、ひと月半の時間をかけて映画のクランクインを迎えることにもなる訳だ。なんて贅沢な映画の為のリハーサルだ。存分に稽古を堪能しよう。芝居を熟成させ、醗酵させよう。
キャストの紹介、挨拶があって、すぐに本読みが始まった。当然のこと、最初から最後まで通して読んでみる。
二時間近くの間、詰まろうが噛もうが飛ぼうがノンストップ。がしかし初めての本読みは新鮮だった。男三人で何度か読み合わせもしたが、まるで違った。そこに相手がいた。声が響いた。声が返った。聞いてくれる、感じてくれる対象があった。
一人きり、カラオケBOXにこもって読み込んだ本の世界が、この日、ようやく動き出したと実感する。

僅かな休憩があり、細野さんからの軽い感想あって、再び本読み。読むことで、声にすることで、細野さんだけでなく演者にも発見がある。勿論、自分自身にも。
初日にして、二回の通し。はある程度は覚悟していたが、なかなかに痺れた。事務所の社長が差し入れてくれた栄養ドリンクを今すぐにも飲みたいような気分だった。
二回通して読みながら、自分の課題も明確になってくる。当たり前だが固い。そして重い。もっと自由自在に、軽快に、明朗に、恍惚に、そうなっていく為にもの、これは自分の為の稽古なのだ。
三度目の通しはなく、場当たり的に読み始めたところで中断。
夜19時、「今日はこのへんで…」の細野さんの声で初日終了。夜21時までやりそうな勢いだった。
バナナ1本では足りない…。稽古初日を経て、まず始めに思ったこと。
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11月29日(土曜日)
13時から、この日も通して本読み。一人で読んでると集中も難しいが、こうして皆で読んでると持続出来る。というか、余計なことを考えている余裕もなくなる。
細野さんから「声」に関する注文。「まだ草野康太の声なんだよな」と…。
僕が演じる映画監督、風間重兵衛は、僕ではなく、映画「貌斬り」における、尾形連司が演じているという多重構成の原点に対する意見。それは自分でも自覚するところでもあり、今回のプロジェクトの一番の命題でもあることだった。
とは言え、これは「声」だけに関することでなく、「存在」そのものへの命題でもあることだった。
それは技術で改善出来る類いのものでもなく、かといって精神論で片付けられる類いのものでもなく、この先ずっと、それは簡単にOKが出されるものでもない、軽くクリアで出来るほどの注文ではない、まさに僕自身の命題だ。俳優としての新たな音色を獲得すること。
自分ではない、風間の、そして尾形の「声」を探す旅…。
早くも主題を突きつけられたと、細野さんの言葉に、何故かしら嬉しくもなる。
三度目のお仕事で、ようやく気付いたことでもあるが、映画監督、細野辰興は、俳優を挑発することが大好きな人なのだ!! それをダメ出しと思うか、それを発破と思うかで俳優の演技に違いが出る。
だから小手先の芝居ではなく、これからの稽古の日々で、自分もそこへと至る突破口を探したい。

夕方、配給宣伝の日下部さんが陣中見舞いに。「千成」と書かれた瓢箪型のお菓子を差し入れしてくださる。お客さんが数多く群がって、実がなるように…。その流儀はよく知らなかったが、宣伝用の写真を撮る。舞台の告知も兼ねてTwitterも始めていた。
なにがなんでも、この芝居を成功させたい! 神にも縋る心境でもあった。
やっていいということがあれば、なんでもやってみたい。試すべきことは、とにかくなんでもトライしたい。そんな心境でもあった。

この日は夕方で終了。明日の日曜日は稽古は休み。月曜日にはどう変わっていけるか?
一日一日が、次第に重みを増してくるはず。
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帰り際、横浜の野毛にある行きつけの店へ。
行くと、渡しておいたチラシが軒先の看板に貼ってあった。
頼んでもいないのに…嬉しくなると同時に、芝居をいいものにして報いなければと誓う。
呑みながら、もう自主稽古ではなく、正式に動き出したのだなぁとしみじみ噛み締める。ここまで来たらもう逃げれない。すでにチケットの予約も始まっている。
ひと月後には公演があり、映画の撮影も始まる。12月からは怒濤の日々が始まる。明日はその為に準備をしよう。本当の休日は、映画の撮影が終わってからだ。

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映画「貌斬り」は絶賛編集中。第一回スタッフによる編集ラッシュは2時間26分の超大作!
完成はまだ先ですが…。この文章は、その完成した映画を、全国各地の映画館で観てもらいたい一心で書いてみようと思ったものです。
映画「貌斬り」はモーションギャラリーサイトにて、劇場公開を支援していただける方を募っています。良かったらサイトの方もご覧になっていただければ幸いです。募集も残り約二ヶ月となってきました。
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