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「恋唄綴り」

第十一章 「御殿場合宿(前編)」

12月18日(木)
前日の撮影は深夜0時を過ぎたが終電で帰宅。その終電を逃したらプロデューサーのSさんが自らの運転で自宅まで送ってくれるというが、ギリギリで間に合う。不眠不休でハンドルを握るSさんの運転で帰るのはちょっと怖く避けたいとこでもあった。もしそうなったら自費でもよいからタクシーで帰えろうとも思っていた。カーチェイスさながらに最終電車を追いかけて走っていたSさんの車は、奇跡的にN駅で最終電車に追いつき、猛ダッシュで駅の階段を駆け下りてはその電車に乗り込んだ。やれやれ…。タク送など今は遠い昔の話、のご時世なのだ。帰れただけ良しとしよう。
二日間の撮影はタイトだが楽しかった。冬の光を久々に浴びた。風は冷たかったがそれも心地よかった。ずっと稽古場のエアコンを浴びていたので、余計に喉に優しかった。台詞が少ないのも助かった。老けメイクを凝らし、新卒社会人の父親役を演じた。
2日の撮影と2日の休日。計4日の稽古休みはリフレッシュ出来た。そして、これでもう休日は終わりなんだと覚悟も出来た。後はもう本番まで突っ走るのみだ!

翌朝、早朝の高速バスに乗り富士山の麓、御殿場へ向かった。
前回公演では二回の合宿が組まれていた。朝から晩まで稽古三昧。共演者と寝食を共にし、役を深め、芝居の完成度をあげる。今回は一度しか組まれてないが5泊6日。稽古のヤマ場がこの合宿となることはあらかじめ解っていた。
国立の青少年教育施設「国立中央青少年 交流の家」が今回の合宿の拠点となった。
御殿場の駅で細野さんの車にピックアップしてもらい、ドラマ「戦国自衛隊」やVシネマでお世話になった御殿場の街を眺めながら交流の家へたどり着く。
冷たく澄んだ空気、「家」とは名ばかりのただっ広い敷地内。道路を隔てた敷地は自衛隊の基地でもあった。そして間近に富士山が見えた。
芦花公園から御殿場へと。まさに稽古の折り返し地点。こんな遠くまで来てしまった。

まず、場内の説明を兼ねたオリエンテーション。元は米軍のレクリエーションセンターであった土地を、昭和34年から国民施設として開所した歴史ある施設であることを聞く。その後、初めての昼食(バイキング)を経て、稽古の為の講堂に集合する。
芦花公園の稽古場からは一転し、とにかく広い講堂だった。思う存分、声を張り上げても、最後列には届かないかもしれない。それくらい広い場所だった。ちょっとしたコンサートにも対応出来そうだ。
解放的で、見晴らしも良い最高のステージで稽古出来る。そう思ったが、いかんせん寒かった。ストーブを焚き、尚かつ暖房も入れてもらったが寒さは軽減されない。隙間風なのか、足下からスースーと冷気がまとわりつく。とは言え、稽古は楽しくスタート出来た。稽古場が変わり、目先の風景が変わり、演じていて新鮮だった。
この地までも同行してくれた美術の金勝さんが、またしても本番使用の仮設の舞台空間を作ってくれた。助監督、有馬くんも何から何まで頭が下がるくらい働いてくれる。
「声」の課題を突き付けられて臨んだ合宿だったが、この日の「声」は自分でも少なからず変化が感じられた。数日の休暇が好転したんだと思った。もしくは稽古場の問題か。壁に跳ね返る芦花公園の稽古場は、自分でも声を出していて息苦しくなることがあった。御殿場に籠る数日間で、本番への手応えをしっかりと感じたい。そして新たな音色を獲得する。自分なりの目標だった。

夜になり、寒さがどっと場内を支配しはじめて、この日の稽古は早々に終了。熱くなっていくはずの芝居も凍えてしまいそうな勢いで、夜の御殿場の寒さは身に染みた。
さすがにこれ以上この寒さと闘いながら稽古は出来ないと、明日からの稽古場を急遽探すことに。
広大な敷地内のミーティングルームが使えるかもしれないということになり、金勝さんが素早く段取りを進めてくれてはこの日のうちに帰宅された。陣中見舞いの焼酎と日本酒を置いて。初日だけとはいえ、金勝さん不在では合宿も成立しなかったのではないだろうか?
夜9時、施設内の浴場にて、共演者と汗を流す。いや、凍えた身体を温める。馳役の嶋崎さん、壷井役の金子君とは、この風呂場で初めてゆっくり話せたような気がする。芦花公園では、そういう時間もあまり持てなかった。

本来は禁煙禁酒の部屋で、皆でこっそり呑んでから寝る。金勝さんの焼酎をお湯で割っていただく。
寝不足の自分は誰より早く休ませてもらおうと思っていた。
明日は6時起床!? と、合宿初日から軽い悲鳴をあげたくなるのだが、寝て起きて、芝居して芝居して芝居する為の合宿なのだ。余計なことは考えず、この一杯を呑んだら寝よう…と思う間もなく記憶が途絶える。
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12月19日(金)

6時起床、というか、6時に宿舎内にアナウンスが入り、自ずと目を醒まさなければいけなかった。
朝のオリエンテーション参加がこの施設を使う者の決まりで、気温が氷点下の場合のみ中止となる。この日の朝は0度を下回り、中止のアナウンスが響いた。
7時から朝食。これまたバイキング。学生が使うことの多い施設なので、食事は充実していた。
昨日の焼酎が思った以上に残っていた。そんなに呑んだ訳ではないのに、何故か? 食事も進まず気持ち悪い。胸のあたりがムカムカする。ヤバい…。
一旦部屋に戻り、軽く横になり、水を飲み、煙草を吸いに行き…あっという間に稽古開始の9時。
そして間髪入れずに細野さんの「ヨーイ、ハイ!」通し稽古が始まった………。
午前中は本当にキツかった。芝居の間もひたすら水を飲んでいた。吐けるものなら吐きたいくらいに。
昼食を挟んでからの午後になりようやく少し落ち着く。新たな稽古場、普段はミーティングなどに使用されるその場にも慣れる。講堂に比べれば狭くはなるが、芦花公園より奥行きもあり、何より空調が効いているので暖かい。
合宿参加メンバーは出演者全員。それに加えて演出の細野さん。助監督の有馬くん。黒子役兼演出助手の日里ちゃん。更に、黒子役兼映画「貌斬り」におけるカメラマン、道川さんが加わった。
道川さんがこの合宿に参加することも、この合宿のテーマのひとつ。黒子カメラマンを加えての芝居。黒子の動きが、これまでの芝居とどう融合していくのか? 本格的に着手する。演じていても、黒子の存在がアクセントになる。かといって黒子は黒子。意識ばかりもしていられない。これまた芝居同様に、呼吸を合わしていくしかない。
道川さんは仕事も何度かしているが、とにかくいろいろな場所でよく顔を会わす。フットワークの良い活動的なカメラマンである。同世代ということもあり、影響受けてきた映画にも、人物にも、共通点がある。この「貌斬り」の、この黒子役を含めた道川さんの起用も心強いものだった。
夕方のオリエンテーションも、寒さのため中止になり、夕食を経て夜も稽古。自分も含め、疲れてない人など誰もいなかったことだろう。
風呂の時間が待ち遠しくもなり…。呑まずともぐっすり寝れそうな二日目の夜。氷点下。明日の朝のオリエンテーションも、どうか中止になってくださいと祈り、眠る。
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12月20日(土)

三日目。朝のオリエンテーションはこの日も中止。決行されても誰も起きれなかったのではないか?
食堂を使うのは自分たちだけではないので、7時きっかりには行かないと込み合ってしまうので早めに食堂へ。前日の反省もあり、この日は朝から快調。たっぷり食べて長丁場の稽古に備える。白米に納豆。フルーツと珈琲。とりあえずこれがあれば満足。
助監督の有馬くんから伝言。「9時開始を30分遅らせてください」とのこと。それでも9時半開始!?なのだ。午前中だけで一回通しての稽古が充分にやれる。果たして今日は何回の通し稽古になるだろう?
他にすることもない施設内なので、9時半開始といえども9時前にはみんな稽古場へ集まってくる。台詞の確認、ストレッチ、殺陣の稽古などなど。自分だけでなく、それぞれが新たな命題と向き合っている感じ。自分はとにかく突き抜けたかった。台詞を置いて喋る段階は終わり、もっと自在に、緩急つけて。全編をアドリブのように繰り出せたら。押したり引いたりを繰り返し、「マジメ」さから脱却すること。その為に、芦花公園の手狭な稽古場を離れ、ここまできたのではないか。
夕方、オリエンテーションが決行されることになり、少し早めに稽古終了。
細野さんに誘われ、食堂横のスペースでお茶を飲む。いっこうに軽くならない風間の演技に業を煮やしたのか、細野さんが出会ってきた巨匠映画監督の逸話を幾つか話してくれた。そんな映画監督たちの集合体が、僕が演じる風間重兵衛となる。今は無き、昭和の巨匠たち。映画監督という名の奇人変人。そういった人たちの残滓を、僕も辛うじて東映京都撮影所で出会わせてもらってきた。そんなことをも思い出し、細野さんの話に耳を傾けながら、風間像をもっと自由に、もっと豊かに膨らませていきたいと改めて思った。枷をつくらず、残りの稽古で野蛮さ、卑猥さ、面白みを加えていきたい。その葛藤の果てにのみ、映画で演じる尾形というキャラクターが潜んでいるはずだ。
この日こうして話す時間を作ってくれたように、細野演出は俳優に寄り添う。寄り添いながら挑発し、その俳優から発せられる新たな演技を待ち続ける。発するのは自分だ。待たせてばかりもいられない。飛躍の兆しを見出すのは今だ! この御殿場の地だ! 

そんな思いとは裏腹に、この日の深夜、喉が痛くて目が覚めた。痛みの為に、というよりは、痛いことが不安となって少しの間、眠れなくなった。
稽古が始まり、喉が痛い日はそれまでにもあったが、痛い箇所がそれまでとは異なった。奥へ奥へ、痛みの度合いも重く鋭くなっている。ひょっとするとこれがポリープというやつか? 一瞬そんなことをも思ったが、どうすることも出来なかった。
重たくて低い声を出そうと、意識して喉を締めつけるように喋っていた。映像では用いない発声法で、勿論初めての試みでもある。それ故の負担であって、ポリープなどどいう大袈裟な病気でもなかろうとも思うのだが、何もかもが心当たりのないもので不安になった。気分転換に深夜の外気を吸いにいくと、見渡す限り靄がたちこめ、まるで舞台上のスモークのようだった。
富士登山にたとえるなら何合目だろうか? 登ったことないから解らないが、公演まではひと月を切っている。明日には痛みが消えているよう。明日には兆しが見えるよう。本番さながらに、明日も朝からフル回転で臨むしかない。逃げようにも、フェンスの向こうは自衛隊の基地である。
不思議と寒さは感じなくて、夜風も心地よく、頭は妙にスッキリして、また深い眠りに落ちれそうな、稽古合宿、三日目の夜。。。

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舞台「スタニスラフスキー探偵団」を経ての、映画「貌斬り」は絶賛編集中。
この文章は、その完成した映画を、全国各地の映画館で観てもらいたい一心で書いてみようと思ったものです。
映画「貌斬り」はモーションギャラリーサイトにて、劇場公開を支援していただける方を募っています。良かったらサイトの方もご覧になっていただければ幸いです。募集締め切りは4月27日までです!
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