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恋唄綴り

第十二章 「御殿場合宿(後編)」

12月21日(日)
朝6時起床、オリエンテーリング参加。国旗を掲揚する。なかなか出来ない経験だし、あえて志願する。「君が代」を聴きながら、村上春樹「ノルウェイの森」を想起する。
午前稽古開始。喉の痛みは治まらず、がしかし恐る恐る声は出してみる。出すことで更に喉が強くなるかもしれないし、怖がっていても仕方ない。痛みが消えるころには新しい音色が獲得出来ているかもしれない、と淡い期待も抱きながら…。
前日から道川さんの黒子カメラだけでなく、定点で別カメラも回し始めている。演じている自分がどう映っているのか? 気にならない訳でもないが、チェックする余裕もない。
稽古はこの日も本域で、通しも数回。台詞がままならない箇所がこの段階で出てきて焦る。何度も通して演じてきてわかったのだが、どこかで台詞を確認出来るような時間がない。舞台が始まったら、板の上にあがったら、素に戻れるような時間もない。特に後半はダイナミックに展開されるので、何が起きても台詞だけは飛ばないように何度も何度も腑に落とさないと本番が怖い。まだこの稽古中は許される失敗だが、その失敗をも本番の糧にしていかないと意味がない。
疲れてる。集中に欠ける。何事も言い訳にならない。そうならないようにする為の稽古。たっぷり時間があるようで、徐々に焦りのようなものも芽生えてくる。果たしてこの芝居は本当に面白いのか??
細野さん、有馬くん、常に同じ観客の前で何度も繰り返して演じていると、ときどきどうしようもなく不安にもなる。

夜は懇親会。稽古一筋の合宿中、唯一のゆったり出来る時間。
女子が宿泊してる別棟の和室にて酒を呑む。ここでの飲酒は許可を取れば許されてるようで、ビールやらワインやらを呑みながら談笑。なんだかんだでストレス溜まっているのだろう、助監督有馬くんが異様に酔っぱらっていたのが印象的。本当にタフで、全員分のケアをしてくれている。最年少の金子くんは誕生日ケーキを肴に酒を呑み撃沈。すやすや寝ていた。
皆で長谷川一夫主演「銭形平次・まだら蛇」をDVDにて鑑賞。共演は美空ひばり。主役芝居とはどういうものなのか? また声の出し方、身のこなし方、いろいろ参考になる。
宴もたけなわ、まだまだ呑めそうな夜でもあったが、後片付けは若手に任し、早々に風呂に。40間近のおじさんは早くあったかい風呂につかり、明日の稽古に備えて眠りたい。偽らざる心境。
風呂場へ行くと寝ていたはずの金子くんもいて、老人のように半身浴していた。この飄々とした現役大学生、金子くんのマイペースさに何故かしら癒されてしまう不思議。
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12月22日(月)
稽古合宿の仕上げの日、と勝手に思っていた。
何か、何でもいいのだ。この地まで来た意味を、形にして帰りたいと…。ただ疲れて帰るだけでは勿体ない。何かしらの手応えを土産に帰りたい。
昨夜の懇親会の影響もあってか、午前午後は稽古も停滞気味。細野さんだけでなく、撮影・道川さんも有馬くんも疲れの色は隠せない感じだった。この三人は稽古だけでなく、映画のカット割りも考える為の合宿なのだから当たり前だ。
こうなってくると、ダラダラと止めながらやる稽古より、本番さながらの通し稽古のほうがピリッと皆が緊張して、稽古にも張り合いが出る。失敗しようとも最後まで通すのだ。稽古といえど一本道の綱渡りをしているほうが集中も持続できるようになってきた。

恐らく稽古合宿最後の通し稽古が始まる前に、細野さんが口を開いた。
「ハレとケ」についての話だった。舞台の上で緊張している俳優を観たくて観客は劇場に来る訳ではない。日常を忘れ、非日常に身を浸し、俳優の生き生きとした演技を観たくて観客は劇場へ足を運ぶのだ。芝居は、舞台とはそういう意味で、「ハレの日」なんだよ、と。
「演技を魅せろよ」そんなことを言われたことも思い出す。演技を、技を見せろ。緊張している場合でも、不安に押しつぶされてる場合でもない。観客を魅了するのだ。「ハレの日」の姿を焼き付けてもらうのだ。
不意に発せられた細野さんの幾つかの言葉が、通し稽古開始数分前、何故かストーンと腑に落ちた。視界が急に明るくなるのを感じ、また劇場の暗闇の中にいるように安心出来た。欠けていた何かが、ピタッと身体の空洞に引っかかり、ギアが入った瞬間だった。と思う。

「よーい、はい!!」
本番さながらに暗転し、明転し、テーマ音楽が鳴り、その音楽と共に舞台上へ。
出だしに苦労する芝居だった。出だしでつまずくとなかなか修正できない。だからいつも怖かった。しかし、この日の通し稽古も「ハレの日」なのだ。いや「ハレの日」の為に僕らは向かっている。その「ハレの日」というこの言葉が何故かお守りになって、そこから先の、この日の芝居に変化を与えてくれた。

2時間の通し稽古を終えると、まずはトイレに駆け込み顔を洗う。汗だくの顔を洗い、喉を消毒する。
すぐに反省なども出来ない。最後まで通せたことにまず安堵し、荒れた息を整える。誰の顔も見れない。誰にも顔を見られたくない。ほんの少しの時間でも、一人っきりにしてくれと思う。
稽古場に戻ると、馳役の嶋崎さんが昂揚した様子で「面白かった〜」と、初めてそう言ってくれた。出番が来るまで、いつも観客の位置から僕らの芝居を観てくれる嶋崎さんで、ときどき合いの手のように笑ってもくれ、無反応な稽古場では多いに助けてくださったが、今日は本当に楽しんでくれたみたいだった。その嶋崎さんの反応が素直に嬉しかった。
破綻もあったが、それも今はよし、演じていて初めて解放された通し稽古だった。それを誘ったのは、細野さんの「ハレの日」の話し。この言葉に誘導されるように、心も身体も一歩前へ進んだと感じられたこの日の稽古が、御殿場合宿のひとつの到達点となった。
不思議なことに、痛みが続いた喉のことも、稽古が終わった後はあまり気にならなくなっていた。
稽古終わりの最後の風呂を堪能し、また最後の夜を過ごす。
ひとつのきっかけをもらったことで、本番へ向けてのまた新たなモチベーションが上がってきた。この日の芝居をベースに、いや、もうこれ以上は停滞出来ない。ここから先へ、前へ、前へ。。。
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12月23日(火)

最終日も6時起床。最後となるオリエンテーションにも参加。静岡の高校生達、台湾からの女子サッカーチーム(大学生?)らとも今日でお別れ。この台湾女子サッカーチームの面々が本当に可愛らしく、助監督役の森谷と僕を多いに喜ばせてくれた。当然、観に来てはもらえないだろうけれど、最終日ということもあって舞台のチラシを配布する。女子ワールドカップの予選で、いつか彼女たちの姿を見つけることがあるだろうか?いやいや、その前に自分らが台湾のスクリーンに映し出されなければいけないのだ。
荷物をまとめ、最後の稽古に臨む。前半部分のみの、抜き稽古としてスタートしたはずの午前稽古は、何故か白熱し、そのまま後半部分にも突入し、後半は延長サドンデスのような芝居が続くため、途中で中断することもなく、気付くとラストシーンまで稽古していた。無問題。想定内。もう何も恐れはしないし、動じない。
五泊六日、御殿場での稽古合宿はこの日の午前をもって終了。
これまた最後の昼食を堪能し、三三五五、帰宅。
御殿場からは一人、高速バスで帰宅した。舞台「スタニスラフスキー探偵団」テーマソングとなる、「恋唄」が入っている内山田洋とクール・ファイブのベストアルバムを聴きながら…。
窓外の風景に何故かマッチして、胸に沁みて、グッと込み上げて、約2週間後に迫った本番のことをイメージしながら、「ハレの日」を待ち焦がれながら聴き続けた。音楽に身を委ね、詩に心を重ね、無心に、空っぽになり、目を瞑った。。。

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舞台「スタニスラフスキー探偵団」を経ての、映画「貌斬り」は絶賛編集中。完成遅れてる報告もありますが、それもまた当然。滅多に観られない映画へと至る過程でのことです。
この文章は、その完成した映画を、全国各地の映画館で観てもらいたい一心で書いてみようと思ったものです。
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