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12月30日 芦花公園稽古場にて
恋唄綴り

第十三章 「年末年始、そして小屋入り」

クリスマスも大晦日も正月も、あっという間に過ぎていった。何も予定は入れられなかったのだから当然とも言えるが、たとえ稽古が休みでも、なんらかの形で舞台と映画に関わっている、そんな日々であった。
芦花公園に戻ってからの稽古の日々に、メモらしいメモも書き加えられることはなかった。とにかく毎回が全力の稽古だった。本番の暗闇を想像しながら、また渇望しながら演じていた。細野さんに何か助言されても、最早メモる必要もない。その場で噛み締め、砕いて、腹底へ消化する。覚えることに腐心した台詞と同じ要領で。
新たな音色から、更なるうねりへ。これが新たな細野さんからの要求だった。人が持つ二面性、多面性を滲ませられるように、と。自分でもまだまだ発見があると思っていた。身体が勝手に動いてしまうような、言葉が勝手に溢れてきてしまうような、この戯曲にはまだまだ出会っていない感情が隠されているはずだ。これでいい、ということはない。大丈夫も、OKもない。狂気のような、奇跡のような瞬間に出会う為、もう一回、あと一回、螺旋階段を登るように、演じて演じて演じ続けて行くうちに、別世界への扉が待っていると信じて、息を整え、無心になって毎回スタートラインに立つよりなかった。
「緊張するんじゃなくて、集中するんだ!」御殿場合宿を経て、細野さんからのこの言葉をいつも自分に言い聞かせた。
年末からは録音の若林さんも合流。映画だけでなく舞台にも精通してそうな若林さんだけに心強い。何より稽古場で存在感がある。俺に任せろ! そんなオーラに満ちていて、席に座ってくれるだけで何故かしら安心する。
撮影、黒子役の道川さんも、同じく黒子役、日里ちゃんも本番体制。皆も衣裳を纏いつつ、芝居の全形像だけは見えてきつつあった。出来ることなら一刻も早く劇場に乗り込みたい。闇や光を感じながら芝居を体感してみたくなってきた。

12月30日、その年の稽古の最終日にウエイトレス役の和田光沙の誕生日があった。前回に引き続き、稽古中は彼女のアドリブに皆が振り回されることとなる。しかし彼女なりにその日の芝居の流れを汲み取って、その上でのアドリブを披露してくれるので破綻がない。ワビサビを熟知したかのような絶妙なアドリブに、やはり自分も救われている。二度目の出演でありながら、毎日の稽古を常に新鮮に演じようとしている。同じことはしない。簡単なようでいてとっても難しいことを淡々とやり続けている彼女の存在も、やはり心強いものだった。

2014年の最終稽古のあと、地元横浜へ戻り、映画監督であり旧友の御法川修氏と、同じくドキュメンタリー監督の中村高寛さんと久々に会う。約束したわけではなく突発的に会えることになったので中華街まで向かった。三人で会うのは本当に久々のこと。今日だけは、とことん呑んでしまおうかな?とも思うのだが、水分不足なのか、呑んでも呑んでも酩酊しない夜。気付くと行きつけの店のカウンターで、一人最後まで居残ってしまった。
明日は大晦日。2014年の締めくくりに思うことは、やはり舞台の成功だけだった。この舞台が成功しなければ、映画「貌斬り KAOKIRI」へは至れない。年が終わる感慨は、だからまったく感じられず。
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大晦日、一人自室で紅白歌合戦を横目に見ながら、台本をめくりつつ除夜の鐘を聞いた。無意識に台本を開いていた。稽古場ではもうほとんど開くことのなくなった台本を年の終わりに、また新年の始まりにもう一度読んでみたくなったのだろうか? 手垢にまみれた台本は、相棒と呼べるくらい愛着が湧く。どこにも売っていない。誰にも理解出来ない。自分だけがメモを記し、斜線を加え、色を重ねたオリジナル台本は宝物だ。だからゆっくりと、じっくりゆっくりと、久々に時間をかけて読み直してみた。読んでみて改めて、濃厚な素晴らしい戯曲だと再認識する。だからこそ演じ手にとっては大変な芝居なのだが…。

元旦のみ、家族親戚と共に過ごす。毎年、相模原の母の実家へと向かう。午前中は冷たい雪が舞った。そんな中での寒中水泳を見物するのが毎年の行事のひとつ。
寒中水泳の最多出場記録を保持する祖父に会う。すっかりご無沙汰。ボサボサ頭に髭面の孫を見ても嬉しいものなのか? ひ孫も3人出来た祖父の機嫌もとても良さそうだった。「長谷川一夫をやるんだってな?」正確には違うのだが、「まぁ、そうなんだよ」と答えておく。
年始に僕の出演作があると、必ず年賀状に宣伝を書き加えてくれた。「水戸黄門」に出演することを誰より喜んでくれたのはこの祖父かもしれない。そんな「水戸黄門」もなくなってしまって、夜9時からからの二時間ドラマで犯人役を演じている自分を見てもらっっても困ると、あまり活動を報告出来ていない。
けれどこの芝居は観てほしい、そうは思いつつも、高円寺まではなかなか来るの難しいだろう。でも映画になれば。映画館になら来てもらえるかもしれない。そのときなら招待したい。その為にも頑張ろう。不義理な孫ではあるが、そんな思いだけは持たせてもらっている。現実的には難しいかもしれないが、孝行出来ることがあるとすれば、やはり演じている姿を観てもらうことに他ならない。

翌日、2日からはジムに行った。担当の木村さんには舞台のことも正直に話し、そこでのパフォーマンスを考慮したメニューを作成してもらっていた。この2日も、みっちりと1時間トレーニングに付き合ってくれた。木村さんのお陰で偏頭痛も首痛も肩こりも改善されていた。何より、スタミナ調整も考えて、食事や日頃の生活のアドバイスまでしてくれる。体幹を鍛え、走ることで持久力を鍛える。舞台が始まれば、二時間は休むことが許されない。苦手なランニングも、この時期ならあえて挑戦出来るのだった。出来る限り、汗をかこうと思っている。本番では、限界まで汗まみれになりたい。汗と熱と息遣いを間近で感じてもらいたい。内容も大事だけれど、今のこの自分が、自分という存在をどこか遠くに放り出して、ここまで無心に、ここまで汗まみれになれることを、馬鹿馬鹿しいくらいに表現したい。故に、走る!
ジムの後は、恒例のカラオケには行かず、翌日からの稽古再開に備える。
草野家は喪中のため年賀状は書かないが、挨拶がてら、舞台のことを告知したりもする。公演初日まで一週間を切っている。逃げも隠れも出来ないし、初日を遅らせることも出来ない。稽古という猶予はあと3日。明日の稽古も本番モードで行くしかない。稽古開始は午後1時からだけど、本番でもそうなることを想定し、朝8時にアラームをセットする。

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年が明けてから、チケットを予約してくれた友人知人のリストが増えてきて、完売間近の公演も出始めてきていた。完売は嬉しいが、肝心なあの人からの連絡はまだない。このままじゃ観てはもらえないかもしれない、そんな嬉しい悲鳴もあげたくなるが、そこはもうどうしようもない。すべての回が満席になれば万々歳だ。
本番直前だというのに、細かいアクシデントも幾つかあった。すべては本番に向けてのリハーサルだと思えば、寧ろ歓迎すべきアクシデントだったかもしれない。これが稽古で良かったと…。
しかし小屋入り直前の通し稽古に金子くんが姿を見せず、熱を出したと報告を受けたときだけは最悪の事態をも覚悟した。流行中のインフルエンザに罹ったのでは?と、誰もが肝を冷やした。
翌る日、具合悪そうに稽古場にやって来た金子くんは、幸いインフルエンザではなかったようで、代役を覚悟していた演出助手の村田くんも拍子抜けした様子だった。
演出助手の村田くん、清水くんは共に、日本映画大学の現役学生。自ら志願しての演出助手らしいが、プロンプに代役にスケジュール調整にチケット管理、弱音も吐かず、本当によく続けてくれた。僕も一度だけ演出助手をやった経験がある。その舞台で一度だけ、歌手であり女優のりりィさんの代役をやったこともある。何事も経験。無駄な経験など何一つないはずで、いつか彼らがこの稽古の日々を振り返ることがあったら嬉しい。また芝居や映画作りの大変さと魅力に気付き、ヤクザな人生に足を踏み入れることとなったら、大いに歓迎してあげたい。
稽古最終日は、美術の金勝さん、助監督の有馬くん、そして村田くん、清水くんが活躍してくれて撤収。スタッフキャスト関係なく小屋入りの為の荷物をまとめた。
一ヶ月以上通った芦花公園の稽古場ともお別れだ。何もなくなった稽古場の床を清掃する山田キヌヲの姿に、しんみりとしたものすら感じてしまう。ガランとした、なにもない空間に戻った稽古場で、積み上げてきた時間は決して無駄ではないと前を向き、いよいよ明日からは高円寺へ向かう。
待ち望んだ劇場の暗闇が待っている。一寸先は闇、とよく言うけれど、いやいや違う、一寸先は光かもしれない。暗闇と光とのコントラストの中で、自分はどこまで弾けられるだろう、どこまで輝き、また心の闇を表現することが出来るだろう。胸が高鳴り、鼓動が一層早まっていく。武者震いってこういう感じなのか?
もう、なんにも考えること出来ない。後はやるだけだ。ぶっ倒れるまで、舞台上でのた打ち回るしか出来ない。可能な限り身軽に、必要最小限なものだけ持って、身体ひとつで乗り込んでやろう。
20年前、映画や舞台に想いを馳せながら過ごした、我が心の高円寺へ。。。。
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舞台「スタニスラフスキー探偵団」を経ての、映画「貌斬り」は絶賛編集中です。完成遅れてる報告もありますが、それもまた当然。滅多に観られない映画へと至る過程でのことです。
この文章は、その完成した映画を、全国各地の映画館で観てもらいたい一心で書いてみようと思ったものです。
映画「貌斬り」はモーションギャラリーサイトにて、劇場公開を支援していただける方を募っています。良かったらサイトの方もご覧になっていただければ幸いです。募集締め切りは4月27日までです!
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残りあと10日あまり。情報拡散、シェアも大歓迎です! よろしくお願いします!

Comments

ともこ | 04.19.2015 18:58
康太くんの主役の使命感!並々ならぬおもい!、、に反する不安、、ものすごいジレンマを抱えての舞台。、、だとしたらこの映画を観ない理由なんかない!観なきゃいけない。ある意味草野康太の集大成、40年生きてきた証。すっごく大袈裟かもだけど、こんだけの熱量の役者さん、、素敵です、イケメンです、真面目です、ほんまにえ〜子なんです(笑)だからずーーっと応援していきたいんです!

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